和歌山市民が親しみを込めて「市駅」と呼ぶ南海和歌山市駅は、1903年(明治36年)に開業して以来、県都和歌山市の玄関口としての役割を担ってきた歴史あるターミナル駅です。しかし1970年代以降の中心市街地の衰退とモータリゼーションの進展により、利用者は減少の一途をたどり、近年の乗降客数は最盛期だった1960年代の3分の1程度となっています(注1)。市駅前のまちも空き店舗が目立ち、以前の市駅ビルの各テナントであった髙島屋和歌山店も2014年8月に閉店するなど、かつての賑わいは大きく失われてしまいました。
そうしたなかで、2014年10月に、市駅前の商店街・自治会と和歌山大学観光学部永瀬研究室(都市・地域デザイン)の参画により、市駅周辺のまちづくりについて議論し、実践するための組織として、「市駅まちづくり実行会議」(以下、実行会議)を結成しました。きっかけとなったのは、永瀬研究室が同年3月と8月に市駅ビルの一角で開催したパネル展でした。3月の展示会は、同年が市駅開業111周年に当たることを記念し、南海電鉄の協力のもと、市駅とまちの歩みを古写真や古地図、研究室による現地調査の内容をもとに振り返るものです。8月には閉店前の髙島屋の担当者の要望を受け、「和歌山タカシマヤの歴史パネル展」と共同で開催し、この時にはまちづくりの提案をまとめたパネルも展示しました。その際に見学に訪れた市駅地区商店街連盟会長から永瀬研究室に声がかかったことで、組織の結成につながりました。
実行会議では、同年11月から定期的に「市駅まちづくりワークショップ」を開催し、市駅周辺のまちの課題と可能性を共有しながら、まちづくりの方向性について議論を進めることになりました。ワークショップでは、地区住民や市民有志、和歌山市職員も参画し、市駅周辺のまちの将来像の検討を行いました(注2)。そして4回目のワークショップでの議論が発端となり、市駅前通り(市道和歌山市駅前線)を歩行者天国化する社会実験「市駅 “グリーングリーン” プロジェクト」が企画・実施されることになりました。
注1)南海和歌山市駅の1日当たりの乗降客数は、1967年には5万4千人余りであったのに対し、2019年度は1万6千人台となっています。
注2)2017年3月までに計10回の「市駅まちづくりワークショップ」を実施し、最終回ではそれまでの議論と市駅前通りでの2回の社会実験を踏まえ、2050年に向けた市駅周辺の将来ビジョンと取り組みのアイデアをまとめた「市駅まちづくり実現構想」を提示し、実現のためのシナリオを議論しました。