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百年老舗Vol.3 : 福島商店 ~エネルギーとライフスタイルの進化に寄り添う~

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《百年老舗とは…》

   時代の流れの中でしなやかに変化を遂げながら、まちとともに歩み続ける老舗。和歌山市駅周辺にも、百年以上の永きに亘り、多くの苦難を乗り越えて事業を営んできた“老舗”と言われる商店があります。ふとしたまちかどに佇むそれぞれの商店に受け継がれてきた、老舗ならではの理念や工夫などの興味深いお話を、経営者の方々にインタビュー形式で伺いました。それらを“百年老舗”と銘打ち紹介していきます。

エネルギーとライフスタイルの進化に寄り添う ~福島商店~

 福島商店は1877(明治10)年の創業以来、燃料問屋として木炭をはじめ各種固形燃料の販売に携わり、1958(昭和33)年からLPガス・灯油の販売も開始し、近年では電気、住宅設備、住宅リフォームなど住まいに関することをトータルでサポートする事業を展開しています。
 福島商店5代目社長福島幹治さんに、永年お店を続けられて来られた経緯やエピソード、お店に対する思いなどのお話を伺いました。

取材風景

1. 福島商店 商いの歴史

Q. 1877(明治10)年に燃料問屋として創業されたきっかけについて伝え聞かれていますか?

   戦災によって資料や写真のほとんどが燃えてしまったので、創業時の詳しいことは分かりませんが、燃料問屋を始める前は米関係の商売をしていたと聞いています。創業後は薪や紀州備長炭、練炭を大阪府の泉南地域から和歌山県海南市周辺のお客さまに卸売りの販売をしていました。また、以前は結納品も100年以上扱っていました。

Q. 昭和30年代にLPガス・灯油の販売を始められていますが、問屋(卸売り)から小売も兼業されるようになった経緯について教えてください。

   問屋と小売を兼業するようになったきっかけは、ガスや灯油を燃料とする機器が普及してきたことから固形燃料の販売が落ち、ガスや灯油の販売を始めないと存続できないと感じたことです。

Q. 昭和50年代に住宅設備機器を、昭和60年代にリフォーム事業を開始されていますが、その理由を教えてください。

   燃料事業の将来が見通せない中で、会社として生き残るためには、何か他では取り組んでいない新しいことを始めなければならないと考えて新規事業を始めました。もともとリフォーム事業に興味があり、商売としての広がりがあると感じたからです。お客様の生活様式の変化から住宅の改築工事の要望がありましたが、当時大手の企業はリフォーム事業を手掛けておらず、地域に繋がりのある当店に商機があると考えました。

Q. 新規事業参入で大変だったことは何ですか?

   大工さんや工務店と提携してリフォーム事業を展開しましたが、お客様の要望は多岐に亘り、初めて手掛けることも多く、その度に勉強して要望にお応えするよう努めました。また、燃料販売は定期的にお客様を訪問することで、自然に信頼関係ができましたが、リフォーム事業ではそういった機会がないため、お客様と信頼関係を築くことが難しく大変でした。これからも信頼関係を築けるように頑張っていきたいと思います。

Q. 時代とともにエネルギーの変遷があったと思いますが、燃料問屋としてどのような苦労がありましたか?

   店を継いだ1983(昭和58)年頃は大変でした。都市ガスが石炭ガスから天然ガスに転換し、普及し始め、供給エリアも拡大されました。さらに近年は電力会社のオール電化の推進もあり、LPガスから都市ガスや電力への乗り換えが急増しました。特に都市ガスの供給区域の拡張が早く、顧客を確保することが大変でした。少子高齢化による人口減少も重なってお客様が半減し、当時和歌山県下に約700店あったLPガス販売店は、現在は約360店と半減しています。

商品倉庫

2.老舗に対する思い

Q.「老舗」と言われることをどのように感じておられますか?またプレッシャーを感じられたことはありますか?

   「老舗」ということは特に意識はしていませんが、信頼によって店が続いているので、「裏切らない」「誠実に」ということを大切にしています。人と人との繋がりが大事なので、ものを売って終わりではなく、アフターサービスを充実させることが大事だと思っています。

Q. 老舗としてのプライドや魅力についてどのように考えておられますか?

   時代によってできることや求められることが変わってきていますが、どんな変化にもすぐに対応し、幅広くいろいろな事業ができるように、体制を整えてきたことが強みだと考えています。

Q. 100年以上和歌山でお店を続ける中で時代が変わったと思うことは何ですか?

 電力とガスの自由化です。昔は事業や地域ごとに販売会社が固定されていましたが、2016年に電力、2017年に都市ガスの小売が全面自由化され、登録事業者であれば業種に関わりなく自由に電気や都市ガスの販売が可能になりました。これにより地域を越えた販売会社による顧客の争奪戦が起こりました。大手企業では、電気とガスのセット販売などのサービス拡充によって顧客の囲い込みをしていますが、小さな企業はいろいろな工夫をして生き残っていくしかありません。

3.商いの原点、地域密着型企業としてのこだわり

Q. 企業理念や、仕事をするうえで心がけていることは何かありますか?

   社訓には「誠実」「真心」「創意工夫」を掲げています。お客様に対して誠実に対応し、嘘をつかず、難しいご依頼にも創意工夫してお応えしていくことを基本にしています。また、お客様から依頼されたことには、すぐに対応することを常に心がけています。

Q. 事業内容や時代により客層は変化していますか?   

 燃料販売は、企業から個人住宅まで幅広く多様なお客様がおられますが、長くお付き合いをしているところが多く、時代とともにお得意様の中でも代替わりしています。住宅設備販売では新規の方が多く、息子の営業努力もあり客層も広がっています。

Q. 多くの事業の中で、最もこだわりや思い入れのある事業は何ですか? 

 LPガスの販売です。定期的にお客様宅をお伺いするので、地域に密着している地元企業ならではの仕事ができます。「和歌山県LPガス協会」の活動にも積極的に参画し、2015(平成27)年から6年間は会長として業界の発展にも尽力しました。
 2018(平成30)年には県と「高齢者等の見守り協定」を締結し、生活に密着した地域に関わる事業として、高齢者の見守りや困りごとの解決の支援も行なっています。また、LPガスは災害に強いため、和歌山市の指定避難所である学校の体育館に、LPガス仕様の空調や非常用発電機の導入が進められています。

LPガスボンベ

Q. 紀州備長炭は和歌山の特産品ですが、仕入先には何かこだわりはありますか? 

   備長炭は和歌山、高知、宮崎が主な産地ですが、中でも紀州備長炭は、木が固く火持ちが良いと言われています。山の炭焼き職人と直接繋がりがあって、品質の良いものを卸してもらっています。また、択伐(用材などに適した木を選んで切り、その跡に後継の木を植林する方法)を行って持続可能な森林づくりにこだわっている炭焼き職人にお願いしています。備長炭は、燃料として優れていますが、供給される量が決まっているので、高く買ってくれる東京方面に流れていく傾向にあります。

紀州備長炭

Q. お仕事をされている中で印象に残っているエピソードはありますか? 

 大きな家のフルリフォームを任されたことがあるのですが、細かな要望がとても多いお客様で、対応に大変苦労しました。それらの要望を一つずつ解決して、リフォームを完成させましたが、完成時には大変喜ばれ、お礼を言っていただくことができました。苦労した分、達成感が非常に大きく嬉しかったことを覚えています。またとても良い勉強にもなりました。

4.家業を継ぐことへの思い

Q. ご自身が家業を受け継いだきっかけは何ですか?その際に迷いはありませんでしたか?

 もともと家業を継ぐつもりはなくて、大学を卒業してから約10年間サラリーマンとして働いていました。1983(昭和58)年にアメリカに転勤する話があり、以前から商売が好きだったことと、和歌山が好きで戻りたいという思いもあり、家業を継ぐことに決めました。

Q. お店を引き継いでから意識したこと、努力したことはありますか?

 店を引き継いだ頃は、燃料販売中心の仕事で、注文が来るのを待っている「待ちの商売」でした。また、季節性があり冬のみが繁忙期で、特に夏は閑散期で仕事が少なくなっていました。そこで夏の期間にも積極的に仕事ができないかと考えて、新たな事業を展開していきました。また、1990(平成2)年に有限会社化するなどいろいろなことを手掛けましたが、自分がしたことは最後まで責任を持つと決めてやってきました。

Q. 後継者に伝えたい老舗を守るための心構えや大切にして欲しいことはありますか?

 今は息子が後継者として一緒に仕事をしています。お客様の信頼を繋いでいくことは当然ですが、店を継ぐなら業界の外の人と付き合うことも大事だと伝えています。現在息子は商工会議所青年部で理事として活発に活動し、多くの方と交流を深めているようです。

左から幹治さん(5代目)、智基さん(6代目)

5. 創業200年に向けて~時代を生き抜くお店への思い、まちへの思い

Q. 今後新たに始めてみたい事業やサービスなどはありますか? 

   水素エネルギー事業に取り組んでみたいのですが、法律上の問題があり難しいと思っています。燃料業界はCO2を排出する産業なので、「脱炭素」の社会ではこれからのあり方を考えていかなければならないと思っています。将来を見据えながら少しずつ取り組んでいきたいと思います。

Q. 創業150周年に向けた取り組み、また創業200年に向けての展望などはありますか? 

   具体的な取り組みや展望はありませんが、これからも時代にあった商売をしていかなければならないと思っています。地球環境やエネルギー問題についても考えながら、どんなことが起きても対応していくことが大事だと思います。

Q. 長年お店を続ける中で、まちが変わったと思うことはありますか?

   時代とともに市駅周辺のまちも変わってきました。戦後木造2階建てで営業してきた自社店舗を建て直すために駅前の再開発のタイミングを待っていましたが、なかなか動きがなかったので、1998(平成10)年に独自にテナントも入居できる自社ビルを建設しました。

建替え前の旧店舗(1997年撮影)

Q. 和歌山市駅にキーノがオープンしたことで、お店に何か影響はありましたか? 

 店に直接的な影響はありません。最近市駅周辺にもいくつかの店がオープンし、キーノが核となって駅前付近は賑わうようになったと感じます。これからもっと駅周辺を含めたまち全体が発展していって欲しいと思います。

Q. 市駅GGPのまちづくりに参画されていますが、まちづくりへの思いをお聞かせください。

 自分自身が商店街の役員であり、市駅周辺は今のままではいけないと思って参画しています。駅前には多くの飲食店が必要と考えていますが、市駅周辺にはまだ少ないと思います。通りがきれいになり歩く人が増えるだけでも良いと思います。結果的にまちが良くなれば、事業に直接利益がなくても構わないと思って活動しています。

Q. 今後和歌山市や市駅周辺のまちがどのように変わってほしいと考えておられますか?  

 和歌山市全体としては駅が核となり、その核どうしを結びつけて、様々な設備が整ったコンパクトシティとなることで、駅を中心とした地域の活性化につながってほしいと思います。
 和歌山市駅周辺では駅の裏(紀の川側)や駅前などの少し広い範囲を長い期間をかけてまちづくりを行うなど、地域全体で活性化していってほしいと思います。

 Q.  最後にインタビューを読む方へのメッセージをお願いします。  

 燃料からリフォームまで、日常生活の困りごと、住宅設備関連のご相談は当店へ!

🔶 有限会社 福島商店 所在地等
■所在地 〒640-8216 和歌山県和歌山市元博労町36
■お問合せ 073-423-1682
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店舗外観

◆インタビュー日時:2021年12月8日

◆聞き手:長谷川珠希[和歌山大学観光学部2年]、松村佳乃[同前]、平井千惠[(一社)市駅グリーングリーンプロジェクト]、永瀬節治[(一社)市駅グリーングリーンプロジェクト/和歌山大学観光学部准教授]

※本インタビューは和歌山大学わかやま未来学副専攻のプログラムと連携して実施しました。