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地域主導の社会実験への道程:市駅前通りを「緑と憩いの広場」に(3)

  • 市駅まちづくり
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 市駅まちづくり実行会議の主導で実施することになった市駅前通りでの社会実験は、和歌山市都市整備課(現・都市再生課)も全面協力する意向を示し、原案は実行会議メンバーである和歌山大学永瀬研究室で検討することになりました。一時的な歩行者天国でのイベントはそれまでも市内で行われていましたが、ここでは新たな街路のあり方を検証する「社会実験」として、市駅前通りの可能性を市民が体感できることが重要です。また市駅周辺には人々が憩える公園や広場が少ない現状もありました。そこで車道に芝生を敷き詰め、クスノキ並木と一体となった緑地をつくり、街路を公園のような場所に変える案を考えました。車道が歩行者空間になれば、中央分離帯のクスノキは心地良い木陰を提供してくれます。

 このような原案をもとに、2015年6月の第4回ワークショップで内容を議論し、車道に設けた芝生広場を中心に、オープンカフェや出店エリアを組み合わせ、人々が集い、憩える広場を創出する社会実験の内容が固まりました。名称は「緑」「環境への配慮」を指すgreenと、「拾い集める」という意味のgleanを組み合わせ、「市駅周辺の地域資源を集め、緑あふれる、人と環境にやさしいまちづくり」を目指す試みとして、「市駅 “グリーングリーン” プロジェクト(Shieki “Glean Green” Project)」と命名し、副題に「市駅前通りを緑と憩いの広場にする社会実験」を掲げました。期間は同年9月12日(土)と13日(日)の2日間とし、同時期に市駅ビルでのプロジェクションマッピングを企画していた和歌山青年会議所(和歌山JC)と初日に連携することになりました。

 大きな課題は道路の車両通行止めでした。道路管理者である市とは連携できていましたが、初の試みでもあり、沿道の商業者の承諾、警察や路線バス会社との調整など、多くのハードルがありました。警察との協議では、地域主導で実施するため近隣住民への周知は円滑に行えることや、交通の錯綜する市駅前付近の通行止めはプロジェクションマッピング実施時のみにとどめ、主要な実施区間は市駅前南交差点から終端部の舟大工町交差点まで(約150m)の北進車線として安全対策に万全を期すことを説明し、許可を得ました。路線バス会社にも経路の迂回への協力を求め、土日は通勤通学等への影響が少なく、南進車線は通常通り運行できること等を説明し、了承を得ました。

 目玉となる車道への芝生の設置は、天然芝を敷き詰めることで、より本格的な緑地の設えに変えることを目指しました。大阪市の御堂筋で天然芝を敷いたイベントの事例があり参考にしたものの、予算も技術も限られるなかで、市内の事業者の支援も受けながらさまざまな試行錯誤を行い、大学で育成した芝生と造園用の張り芝、木製のパレットやコンパネによるデッキスペースを組み合わせたレイアウトを計画しました。地域主導であるがゆえ、行政の予算措置等がない点も課題でしたが、商店街組織の予算と地域からの寄付金や協賛金、大学の研究費等で賄うこととしました(注1)

 たまたま同時期に、関係者を通じて市堀川に船を走らせる計画が持ち上がり、社会実験の企画の一部として、市駅付近からぶらくり丁商店街付近の雑賀橋の間で「市堀川クルーズ」を実施することになりました(注2)。また2日目は、2015年からぶらくり丁商店街で定期開催されていた「ポポロハスマーケット」(注3)と連携し、街路と水辺の2つのルートで市駅前とぶらくり丁周辺を結び、人々の回遊を促すこととしました。

 こうして多くの方々の協力・支援を受けながら、市駅前通りを「緑と憩いの広場」に変える地域主導型の社会実験が初めて実現することになりました。

苗箱を用いた芝生育成の様子

苗箱を用いた芝生育成の様子

和歌山大学での芝生エリアの試験設置の様子

和歌山大学での芝生エリアの試験設置の様子

GGP2015poster

2015年の社会実験ポスター

注1)社会実験の運営は地域と大学、行政関係者のボランティアに委ねられるため人件費はかからないものの、通行止めに伴う警備費用が経費の大部分を占めることとなった。

注2)2015年の市堀川クルーズは大阪市立大学の南繁行特任教授の協力を得て、南氏が開発したプラグインハイブリッド船を活用することができました。翌年からは市内の運航事業者の協力を得て実施した。

注3)株式会社紀州まちづくり舎を中心とした実行委員会により、2015年2月より毎月第2日曜日に和歌山市のぶらくり丁商店街で開催されてきた「手づくり」と「ロハス」をテーマにしたマルシェイベント。2021年4月まで開催され、以後は本町公園を会場とした「てとこと市」へと引き継がれている。

(参考)市駅まちづくり通信 第4号